上市町のひとびとと
暮らす

また戻りたいと思える上市町にしたい

ライター・フォトグラファー
大室さん(2014年上市町移住)

東京都世田谷区出身。都会での暮らしをされていた大室さん。結婚後、出産を機に夫の両親の出身地である富山県へ。ご縁のあった上市町へ移住。


上市町で暮らすスイッチ「地方の可能性」

都会で暮らしていた人がわざわざ田舎に住もうとする理由は何なのだろう、と疑問を持つ方もいるかもしれません。

流行の最先端、情報が集結し、何不自由ない便利な暮らしをイメージする都会での生活。
でも、離れて視野を広げてみると、「何でもある」とは言えないものの、地方だからこその様々な可能性や魅力が見えてきます。

環境変化への不安と離れてからの気づき

私は東京都出身で、大学を卒業してからは舞台照明の仕事をしていました。エンターテインメント業界は昼も夜もなく働くようなところ。そんな生活も当時は気に入って、楽しんでいました。
しかし、結婚後、出産を経て、子育てをしているなかで、東京の長時間労働の文化の中では子育てが厳しいなと思い、夫の両親の出身地である富山県へ。当時、新規入居者を募集していた子育て世帯のための町営住宅へたまたま入居することになり、上市町へ移住することになります。

しかし、2人目の子どもの出産直後による社会的地位の喪失、一方的に女性が負わされているキャリア断絶への苦しみ、さらには引っ越しで、あまりにも東京生活と異なることに衝撃を受けて、心身の限界を感じ、単身東京へ戻ることにしました。

家族の協力もあって、東京では大学院へ進み、社会政策を研究。開発学を学ぶにつれて田舎で暮らすことの価値を知り、再び上市町へ戻ることを決意しました。

「田舎で暮らすことの価値」を改めて見つめ直すきっかけとなったのは、地方のまちづくりについて書かれた大学院の友人の論文でした。
きらびやかな、たくさんのものを消費していく商業的な都会での生活に疑問を投げかけているように思えて、それが心に響いたんです。都会の生活とは違う、地方ならではの充実した暮らしを上市町で実現したい、とまちづくりの活動を始めることにしたんです。

まちづくりの課題解決のために

でも地方は、単に移住者の自己実現の場ではないと思うんです。
元々住んでおられる方の暮らしや営みを尊重し、生活の質を上げることによって、移住してきた人たちの地方での暮らしも充実したものにできるはず。
そんな想いで、移住者ならではの目線で活動しています。

町の人の想いを知るためにライターとしてまちづくりに関わる傍ら、博士号を取得するための研究も継続しています。また、フォトグラファーとしても活動し、東京都新宿区で個展を開く準備も進めています。

地方を盛り上げることで生活の満足度を上げ、暮らしを充実させることや、学びを続けていることなど、“ロールモデル”と言ったらおこがましいですが、自分自身が地方での暮らしの可能性を体現できたら、と思っています。
実際に住んでみて感じる地方での生活の良さは、東京都心で常にお金を遣い続け、あらゆるものをずっと消費し続ける生活に疑問を持つこと。これは、上市町へ移住したからこそ見えているのだと思います。

上市町の良さを伝えていく

今後は、たとえ就職などで離れても「また戻りたい」と思える上市町にしたいと思い、高校を中心としたまちづくりの中で、特に10代の女性を支援するようなまちづくりをしていきたいと模索しています。

人口減少が進んでいる上市町ですが、出ていく人たちは上市町のことを知らないのではなく、上市町の長所も短所もよく把握した上で、他の街での暮らしの方がメリットは大きいと判断し、出ていくのではないかと思っています。
だから、まちづくりも中身をもっと充実させて、今いる人が幸せだなと思う町になるような取り組みをする必要があると思うんですね。

たとえば、今、上市町では行政と地元企業が一体となって上市高校を中心としたまちづくりを進めています。
上市町を中心とした企業の協力を得て「働く」ということを高校生のうちから学びに取り入れようという、インターンシップなどの取り組みを行っています。これってとても意欲的な取り組みですよね。
このような取り組みも情報として発信し、知ってもらうことが大事だと思っていて、「はたらくらすコネクションin上市」をお手伝いすることで、その活動に加わることができています。

また、上市高校から上市駅への導線は立ち寄れる場所もなく、閑散としていると多くの方が指摘しています。高校時代を過ごすその毎日の通学路に、学びやつながりを持てる場所を作れないかと構想を練っています。

それから・・・ジンって知ってます?個人やグループが自由な手法、テーマで制作した冊子のことなんです。『ZINE』って書きます。コピー用紙1枚からできて、イラストだったり、文章だったりをおしゃべりしながら作れる会をできたらいいな~と思っています。そのような“ものづくり”を通して、作ったものを交換したりすることで人間関係や、学生同士の交流の機会を広げていきたい。そこに地域の方にも入ってもらって、子どもたちの機会の広がりを作っていきたいんです。

そうやって、まちづくりを自分なりにできるところから始めていけたらと思っています。

上市町にはすでにいいところはたくさんあるんですが、たとえば、子どもを育てるにあたって都市部にはない長所があります。上市町は都会に比べて保育の質が格段に高いです。都会に住んでいたときは当たり前だったお受験文化や残業文化がないことも、リラックスして子育てできる要因だと思います。

また、まちづくりのために、企業の方々や役場職員さん、学校の先生、議員さんなどが自由に参加できて積極的に意見交換できる「ハッピー上市会」のような場があることも魅力のひとつ。まちづくりにかかわる方が集う場で私の想いを伝えながら実現に向けて動いていきたいと考えています。

上市ならではの暮らしを充実させるためにできることを――。このまちで一緒に作っていきましょう!